ようやく再開した昭和迷宮物件。

過去 vol.68 までのブログ http://maboroshi-ch.com/maboblog/karibe/

2年越し、まぼろしチャンネル自体がリニューアルして新規ブログに移行しても暫く停滞したが、これでようやっと新たに動きだせそう。
SNSや食べ歩きの方のブログでも散々触れているのでご存じの方はこの段はスルー頂きたいが、その間、個人的なことながら色々あって、中でも一番大きかったのが、自営のお一人専門珈琲店「結構人ミルクホール」の移転。まぁ最近のことだが、以前の千駄木の店を今年3月一杯で閉め、5月から南阿佐ヶ谷で再開することとなった。
そう、拙ミニコミ同人誌の読者ならピンと来るかもしれない。11年冬号『団地団地レボリューション!』で取り上げたエリア。奇しくも阿佐ヶ谷住宅のご近所となったのだ。偶然とはいえこれも何かの縁。このタイミングならと、再開1発目はまず阿佐ヶ谷住宅について、11年当時の写真を中心に触れたい。

JR阿佐ヶ谷駅前、特にパールセンターというアーケード商店街は平日の昼間というのにまぁ人が沢山行き来してて驚くが、駅からこの商店街に沿って真っ直ぐ南下し、青梅街道を越えると一気に静かな住宅街となる。
都心にも近い静かな好立地だからか、昭和初期か戦後築と思しきやや和洋折衷感のある立派な洋風家屋が多く立ち並ぶ。住宅建築好きには、おおっと声が上がるテンション上げ上げな一帯。この中に、陣内秀信と書かれた表札の家があるのだが、ブラタモリにも出てくるアノ陣内先生の家なのかは要として知れず。

この住宅街を少し抜けただけで、突如として、整然と平屋建ての瀟洒な白い洋風の家々が計画的に並ぶ、緑に囲まれた一角が出現する。

1棟に5軒ほどか、2階建ての長屋形式で棟割りされているテラスハウスのようだ。

日本の長屋との違いは各戸に専用の庭が付いていること。猫の額のようなものではなく、家と同じくらいの大きさに見えるほどの立派な芝生で、ブランコなど裕における広さだ。

この庶民の生活とはかけ離れたライフスタイルが、殆どの世帯が立ち退き廃墟化した姿からも想像できるのは、築年数から勘案するに昭和30年代の高度経済成長期に憧れた幸せな家族の象徴であり、当時放送されていたアメリカのホームドラマで見るような家々だったからに違いない。

この阿佐ヶ谷住宅、日本住宅公団による昭和33年の竣工と同時に入居が始まり、全350戸の内テラスハウスタイプは174戸建てられた。

今でこそ公団住宅というと低所得者層のものというイメージもあるようだが、JKK(住宅供給公社)とUR(嘗ての日本住宅公団である都市再生機構)で、所謂安くて抽選があって倍率が高いのはJKK。阿佐ヶ谷住宅は中堅所得者向け住宅として計画されたので、庶民が頑張れば手の届きそうな幸せ…という、イケイケドンドンの時代にいいポジション取りをしていたと思う。

通常設計は公団の設計課が行うそうだが、テラスハウスに関しては前川國男建築設計事務所の手によるという【前川建築設計事務所】。阿佐ヶ谷住宅のテーマとして掲げられた、公的でも私的でもない緑地(コモン)を実現するには、ル・コルビュジェに師事したモダニズム建築の旗手へ依頼するという先進性も必要だったのかもしれない。

(一部は団地らしい中層アパートも)


(建った当時からありそうな、古びた外灯)

実際外から眺めただけでも、外国のようでいて、日本の長屋的コミュニティが生きているようなアットホームさといった、付かず離れずの地域性が出来上がっているのを、半ば廃墟化した中にも感じられる。



この雰囲気に魅せられ、数年置きに通うようになったのだが、既に05年の段階で建て替え計画が持ち上がり、09年9月に完全撤去の話が出た折も慌てて駆けつけたものだったが、こうしている今(11年冬)も、取り壊しとはなっていない。

計画が出た当初は反対運動なども耳にしたが、老朽化が進み住民からは早期の建て替えが望まれているところ、ダラダラと計画が先延ばしにされ、住民も反対側も煮え切らない状態が続いている。








とはいえ、2013年4月、延期に延期の続いた解体もついにXデーを迎えた。
跡地にはプラウドシティ阿佐ヶ谷が建ち、現在も一部が建設中となっている。現在の姿からは嘗て阿佐ヶ谷住宅があった頃の空間性は想像できない。それを惜しいとは思いつつも、刷新されることを否定はしないが、少しでも多くの人に阿佐ヶ谷住宅という稀有な空間が日本に存在したことを心のどこかに留めて欲しいという思いから、こうしてブログに書いたり、弊店の名前に付けてみたりしているのだった【結構人ミルクホール阿佐ヶ谷住宅:店名の“阿佐ヶ谷住宅”の由来】

■参照サイト:
阿佐ヶ谷住宅日記 http://www.geocities.jp/asagaya_jyutaku/
全国ノスタルジー探訪|阿佐ヶ谷住宅の風景と全棟コレクション